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萌え語り、短い話 等。// 文章修行家さんに40の短文描写お題(http://cistus.blog4.fc2.com/)挑戦中。
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【即興小説】オフサイド・松西
即興小説トレーニングというものを初めてみました
制限時間とお題に沿って即興で小説を書くの。

1時間で松西

http://webken.info/live_writing/novel.php?id=7760

後日修正するかもしれません

「似合いもしない」


ざわざわと帰宅準備をする学生服の群れを掻き分けて、大柄な男が真っ直ぐに向かって来るのを、西崎は見た。
「腹減った。とんかつ食い行こうぜとんかつ」
不意に近付いてきた松浦は、ひょうひょうとそう言った。
補講を終え、問題集をだるそうに真っ平らの鞄に仕舞いこみながら、西崎は疲れた顔で友人を仰ぎ見る。
撫で付けたオールバックの真下の、額のガーゼが特に目立つ傷だらけの厳つい顔。
見上げる西崎の金髪のリーゼントに似合う鼻骨s固定テープも、誰もが喧嘩の成果と思うだろう。
先日の高校サッカー選手権決勝戦を見なかった者は。
「…だーめ、オレこれから予備校」
「予備校だぁ?似合わねー」
ブーイングを受け、西崎は顔を背けてちっと舌打ちをした。
そりゃあ、似合わないのは自分が一番知っている。
センター試験を二週間後に控えたぴりぴりとした受験生たちのなかで、金髪リーゼントの自分がどれだけ浮くか。
このときばかりは自分の182cmの身長を疎ましく思う。
かと言って、髪を染める気もパーマを落とす気もない。
「急に真面目になりやがってよー」
長い指で入学当初に買ったはずの、まだ真新しいシャーペンを弄びながら、西崎は松浦の不満の声を聞いた。
「真面目なんかじゃねぇよ」
西崎は不良だった。
今でも更生したつもりはなかったが、日々勉強に勤しむ姿はヤンキーと呼ぶには無理があるかもしれない、とは思っていた。
「だいたいなんで大学なんだよ、実業団のスカウト全部蹴りやがって」
その問は、何度も、様々な相手から投げかけられた。
あの決勝の直後、松浦はサッカーを続けてもいい、と言った。
その言葉に、手放しで喜ぶ津野の脇で、西崎は焦燥に駆られていた。
本気で?としつこく松浦に縋り付く様は、今思えばみっともなかった。
だが、あの瞬間胸に浮かんでいたのは、終わりなのだ、という終末感だった。
松浦と西崎は、中学一年で出会ってから、何をするにも行動を共にしていた。
喧嘩も、遊びも、サッカーも、“人殺し”すらも。
久志を殺したのは松浦だ、という噂を、本人は否定しなかった。
その副産物として西崎がその片棒を担いだと言われたが、西崎もまた享受した。
何があっても西崎は松浦の隣にいる。
そういった関係だった。

――サッカー、続けてやってもいい

その言葉はその関係に小さな穴を開けた。
松浦のサッカーの才能は、西崎も充分分かっている。
高校までの趣味なら、どんなに上手かろうが下手だろうが、関係なかった。
隣で一緒にプレイできた。
だが、プロになるなら話は別だ。
松浦はすぐに日本有数の名プレイヤーへと駆け上がっていくのだろう。
自分はそれに付いてはいけないのだろう。必要もない。
満場の歓声と拍手を受けながら、怒った顔を作り俯くその横顔を覗き込み、あのとき西崎はそのようなことを考えていた。

「…おめぇと離れてぇからだよ、腐れ縁もこれまでだ」
減らず口を叩いて笑うと、松浦も軽い調子でけっ、と吐き捨てた。
冗談めかしてみたが、それは真実の言葉だった。
松浦が好きだった。
けれど、陽のあたる場所を駆け上がる松浦に、惨めったらしく追いすがる情けない男にはなりたくない。
隣にもいれないのに、これ以上近くにいたら、もう生涯松浦から離れることはできないだろう。
もう、潮時なのだ。

離れたいから、実業団ではなく大学を選んだ。
繋がっていたいから、サッカーを続ける。

「トレーナーにでもなんのか?」
「あ?」
唐突な問に、西崎は顔を上げる。
なんでもないふうに見下ろす松浦の黒目が、夕日に当たって茶色く透けていた。
「そういうベンキョする学科なんだろ?津野が言ってたけどよ」
確かにそういった職業に就職する学生が多いようだったが、深く考えず大学と学科を決めた西崎は、その旨を素直に伝えた。
「んだよ、オレぁてっきり、ヤンマーの…」
言いかけて、松浦は口を噤んだ。顔を背けてなんでもねぇ、と怒ったような声を上げ、踵を返して教室を出て行った。
その後ろ姿が消えていったドアを半ば呆然として見ていた西崎だったが、ふいに、とんカツというば、必勝祈願とか合格祈願だよなぁ、と思い至り、顔を熱くさせた。
(もう、手遅れじゃねぇか…)
指先で転がしていたシャーペンを筆箱に仕舞うと、ガタガタと椅子を引いて立ち上がった。
生徒は皆帰り、気づけば教室には西崎しか残されていなかった。

ああもう自分は生涯、あいつから離れられないかもしれない。

そう思いながらドアを出て、定食屋のテーブルではなくとりあえず、予備校の白い机に向かって歩き出した。
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